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相続

3か月が過ぎた相続放棄

2018.01.20更新

「父が亡くなってから既に3か月が過ぎました。私はもう相続放棄できないのですか?」とのご相談をお受けすることがあります。 ここでは、3か月経過後の相続放棄についてお話しします。

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなった方)の権利や義務を一切受け継がないことをいいます。 借金等のマイナスの財産だけではなく、不動産や現預金等のプラスの財産を含め、その一切を放棄することです。

相続放棄は、「私は父の相続を放棄します!」と、他の相続人や相続債権者に意思表明するだけではダメで、家庭裁判所への申述により効果が生じます。 ご相談をお受けしている中で、「私は、他の相続人から送られてきた書類に実印をついた。父親の財産は全部放棄したんだ。」と言って相続放棄をしたつもりでいらっしゃる方がいます。 これは、遺産分割協議書にハンコを押しただけで、相続放棄したことにはなりません。 万が一、後日、父親の借金が発覚した場合、原則的にはその支払義務を免れることはできません。

したがって、少しでも借金の存在が疑われる場合や基本的に関わりたくない場合は、しっかりと家庭裁判所で手続をとる必要があります。

なお、相続放棄の申述は、「被相続人の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所で行うことを要します。 たとえば、亡くなった方が仙台市にお住まいだった場合の申述先は仙台家庭裁判所になります。

熟慮期間は3か月

民法は、「相続放棄をするなら3か月以内にやりなさい」と定めています。この3か月の期間を熟慮期間といいます。 熟慮期間内に相続放棄(又は限定承認)をしなかった場合には、その相続人は単純承認したとみなされてしまいます。 単純承認とは、被相続人の権利や義務(プラス財産もマイナス財産も全部)を無限に承継することをいいます。

なお、相続放棄をするかどうかの判断が3か月以内に終わらない場合(相続財産調査が未了)、家庭裁判所に対し熟慮期間伸長の申立が可能です。 被相続人の財産が各地に散在している場合や、相続債務の調査に時間を要する場合等、熟慮期間伸長の申立を行うのが得策です。

もちろん、熟慮期間伸長の申立も相続放棄と同様に3か月以内に行う必要があります。

大事なのは起算点

熟慮期間はいつの時点(起算点)から開始するのでしょうか。 民法は、熟慮期間の起算点を「自己のために相続の開始があったことを知った時」と定めています。 その解釈として判例は、原則として「相続人が相続開始の原因となる事実及び自己が相続人となったことを覚知した時」と解しています。

たとえば、次の事実を知ったときが起算点です。

①子が相続人の場合 ・「相続開始の原因となる事実」は、被相続人(父又は母)が死亡した事実 ・「自己が相続人となったこと」は、自分が第一順位の相続人であること

②兄弟姉妹が相続人の場合 ・「相続開始の原因となる事実」は、被相続人(兄弟姉妹)が死亡した事実 ・「自己が相続人となったこと」は、先順位の相続人(子や直系尊属)が相続放棄をしたなどで自己が相続人(第三順位)となったこと

では、被相続人の死亡及び自分が相続人であることは認識していたが、被相続人に借金があることは知らなかった(財産はないと思っていた)場合はどうでしょうか。

熟慮期間の起算点は、次のどちらになるでしょうか。 ・被相続人の死亡及び自分が相続人であることを知ったとき。 ・被相続人の借金の存在を知ったとき。

この点、判例は、以下のとおり判示しています。

「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人の諸状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてこのように信じるにつき相当な理由がある場合は、例外的に相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算する」(最判昭59・4・27)

つまり、特別の事情がある場合(被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人の諸状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてこのように信じるにつき相当な理由がある場合)は、相続財産の全部または一部を知ったとき、先の例で言えば「借金の存在を知った時」が起算点となります。

相続人は、この特別の事情があれば、被相続人の死亡から3か月が経過していても、相続放棄が認められる可能性があります。

3か月経過後の相続放棄

被相続人の死亡から3か月経過後の相続放棄で問題になる事例は次のとおりです。

①当該相続人が生前に被相続人と絶縁状態であった場合

相続人が被相続人と絶縁状態であった場合、相続人が被相続人の死亡を知ることは困難です。 この場合は、被相続人の死亡から3か月が経過していても、相続放棄が認めれらる可能性があります。 たとえば、相続債権者から借金の督促書面が「届いた時」にはじめて被相続人の死亡を知った場合は、その「届いた時」が熟慮期間の起算点になるでしょう。

ただし、「絶縁状態であったこと」が前提なので、絶縁状態であった事情を家庭裁判所にしっかりと説明する必要があります。

②当該相続人が先順位の相続人の相続放棄を知らなかった場合

たとえば、被相続人の兄弟姉妹が、被相続人の死亡は知っていたが、先順位の相続人(子や直系尊属)が存在していたため、自分は相続人ではないと認識していた場合で、先順位の相続人が全員、相続放棄をしたことにより、相続人となった事例です。

先順位の相続人が相続放棄をしたことを知らないまま先順位の相続人の相続放棄が受理された時から3か月が経過した場合、起算点はどの時点になるでしょうか。 先順位の相続人と次順位の相続人が疎遠であり、その放棄の事実を知らせていなかった場合、3か月経過後に相続債権者からの通知で先順位の相続人の相続放棄の事実を知ることもあるかと思います。

この場合の起算点も相続債権者からの通知が「届いた時」となるでしょう。

ただし、「先順位の相続人の相続放棄の事実を知りようがなかったこと」が前提なので、知りようがなかった事情を家庭裁判所にしっかりと説明する必要があります。

③被相続人に財産はないと認識していた場合

被相続人の死亡及び自分が相続人であることは認識していたが、被相続人に借金があることは知らなかった(財産はないと思っていた)場合で、被相続人の死亡から3か月が経過した後に相続債権者からの通知により借金(マイナスの財産)を知った事例です。

上記の判例のとおり、特別の事情がある場合は、「借金の存在を知った時」が起算点となるでしょう。

ただし、「特別の事情があること」が前提なので、この特別の事情を家庭裁判所にしっかりと説明する必要があります。

最後に

3か月経過後の相続放棄が認められるためには、熟慮期間の起算点についての説明が非常に重要です。

通常の3か月以内の相続放棄の申述とは違い、別途、事情説明書(上申書)を作成し特別の事情等を家庭裁判所に納得させる必要があります。

一番、注意を要することは、債権者等から通知が来た場合に絶対に放置しないことです。 「自分には関係ない」とか、「よくわからないからそのままにしよう」は危険です。

何よりも自分だけでは判断せず、早い段階で専門家にご相談されることを強くお勧めします。