遺言書のススメ
2017.09.29更新
さて、以下は遺言に関してよくお聞きする4つの大丈夫です。
・うちの子どもたちはみんな仲良しだから「大丈夫」。 ・うちにはたいした財産がないから「大丈夫」。 ・口約束で、長男が全財産を引き継ぐことになっているから「大丈夫」。 ・遺言書を作るのはまだ早い・・・死ぬ直前に作るから「大丈夫」。
これって・・・本当に大丈夫なのでしょうか。
☑「争族」が増加傾向にある?
昨今、「争族」つまり、遺産分割において相続人間で揉め事になるケースが増加しています。 司法統計によると、裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は、
昭和60年・・・ 6,176件 平成27年・・・14,979件
と、ここ30年間で実に2倍以上も増加しています。
相続人間の話し合いがまとまらない場合・・・
□遺産分割調停 裁判所において、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、 遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指し話合いが進められる手続。
□遺産分割審判 話合いがまとまらず調停が不成立になった場合、自動的に審判手続が開始され,裁判官が,遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して,遺産分割の内容について審判をする手続。
上記いずれかの方法で解決を図ります。
相続人がいくら仲良しでも、財産の承継が絡むと人が変わったようになり、そこで「争族」が生じてしまいます。
遺言書を作成することにより、被相続人の遺産承継の意向がわかりますので、揉め事を少しでも減らすことができるのはないでしょうか。
☑相続紛争は資産家だけの問題ではない?
一般的なイメージからすると、相続紛争は資産家だけの問題だ・・とのことで、他人事のような方が多いように思います。
しかし、これは資産家だけの問題ではありません。 財産が少ないと揉めない・・・ではなく、むしろ財産が少ない方が揉めているのです。
平成27年度司法統計によると、遺産分割事件として裁判所に持ち込まれた事件の遺産価額と件数割合は、
資産5000万円以下の割合が約75% うち資産1000万円以下の割合は約32%
となっており、むしろ資産家のほうが揉めていません。 見方を変えれば、資産家ほど生前にしっかり相続対策を行っているのではないでしょうか。
相続紛争はわりと身近にある問題だと痛感させられます。
やはり、生前の「備え」を今一度、考えてみる必要があるのではないでしょうか。
☑口約束では財産を引き継げない?
財産を引き継ぐには、原則的に口約束ではなく、書面を作成する必要があります。 (例外として死因贈与契約の場合は、お互いの合意(口約束)だけで財産を引き継ぐことが可能です。 しかし、現実問題、書面がなければその事実の証明が困難になるでしょうが・・・。)
遺言の場合は必ず書面で作成しなければなりません。 民法による厳格な方式が求められており、それに違反すると遺言書自体が無効になってしまいます。
例えば、自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自書し、ご本人の押印が必要です。 パソコンで作成したり、日付が抜けていたなどで、せっかく作成した遺言が無効になり、ご自身の最終意思が実現されなくなります。
間違いのない遺言書を作成するには、公証役場での作成をお勧めします。 公正証書遺言は、遺言作成時に公証人が関与するため、ほぼ間違いのない遺言書が完成します。
仮に自筆証書で作成する場合でも、作成の際には専門家にご相談されることをお勧めします。
☑遺言書の作成はお元気なうちに!
亡くなる直前に遺言を作成するのは判断能力等の関係でリスクがあります。 遺言作成時に認知症等で判断能力が低下している場合は、原則的に遺言書の作成はできません。
自筆証書遺言の場合、そもそもご本人が自筆で書けるかどうかが問題です。自筆で書けなければ、自筆証書遺言はアウトです。
公正証書遺言の場合、ご自分の意思を公証人に伝えることができるかどうかが問題です。 ご自分の意思を公証人に伝えることができなければ公正証書遺言はアウトです。
ちなみに公証人は遺言を作成する際に遺言者の方のご意思の確認をしっかりと行います。
遺言はお元気なうち、つまり、少なくともご自身の意思をしっかりと表明できるときに作成してください。 もちろん、後日、気が変わった場合でも遺言書の内容変更は可能です(例えば、前の遺言と抵触する内容の遺言を後から作成する。)
☑遺言書作成のメリット
ここで、遺言書を作成することのメリットを簡単にまとめてみました。
・遺言者の最終意思を伝えることで、「争族」の予防になる。 ・相続人が遺産の分け方で悩む必要がなくなる。 ・遺産分割協議が不要なため、相続手続が煩雑にならない。 ・相続人以外の第三者(法人を含む)にも遺産を引き継ぐことができる。
遺言書を残しているかいないかで、相続発生後の流れは大きく変わってきます。遺言書があることで、遺産分割協議は不要となり、相続人は遺産の分け方で悩む必要がなくなります。 そして、相続人は、被相続人の最終意思をしっかりと尊重しようとしてくれるのではないでしょうか。
遺言書を作成することで、全員とは言えませんが、残された相続人は救われます。
あなたの想いを後世に繋ぐため、私は遺言書の作成を強くおススメします。