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司法書士・行政書士 坂田英輝事務所

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家族信託で生前対策のススメ

2018.08.03更新

1.もしも認知症になってしまったら・・・

認知症等により意思判断能力が低下した場合、ご自身やご両親の「財産管理」及び「資産承継」についてどのような問題が生じるのでしょうか。以下でいくつかの例を挙げてみます。

①不動産の売却、建て替え、賃貸などの契約を伴う財産管理ができない。
(例)父が施設に入ることになり、自宅を売却することに・・・。父が認知症の場合、自宅を売却するには成年後見人の選任が必要とのこと。後見人が選任されたが、裁判所の許可がおりないとか何とかでスムーズに売却ができない。しかも、成年後見人には、父が亡くなるまで後見人報酬を支払い続けなければならない・・・。
②原則として有効な遺言書が作成できない。
(例)父と一緒に父の公正証書遺言を作成しようと公証役場に行ったが、公証人が「父には遺言能力(遺言の内容をちゃんと理解している能力)がない」と判断したことにより、公正証書遺言の作成ができなかった・・・。
③財産を贈与しても法的には無効になる。

(例)父から1000万円の金銭贈与を受けたが、弟が「その贈与の当時、父は認知症により判断能力が低下していた!」として贈与の無効を裁判所に訴えたところ、当該贈与の無効が認められてしまった・・・。

④任意後見制度(自分で選んだ後見人に財産管理を任せる)を利用できない。
(例)母が認知症になってしまい成年後見人をつける必要性が生じた。母は「自分に何かあったら財産管理は娘である私に任せたい」と言っていた。そこで、裁判所に法定後見の申立てを行ったところ、裁判所は後見人候補者の私ではなく、専門職である見ず知らずの司法書士を後見人に選任した・・・。

上記で記載した問題を回避するためには、ご自身又はご両親がお元気なうちに(意思判断能力が低下する前に)遺言書を作っておいたり、任意後見契約を締結しておいたりと、具体的な対策を講じておくことが重要になってきます。まずは、ご自身やご両親の財産管理及び資産承継についてしっかりと考えてみることから始めてみましょう。困りごとが生じてからでは手遅れになります。

2.従来型の「財産管理」の手法

従来型の財産管理の手法と言えば任意代理の委任契約や成年後見(法定後見・任意後見)があります。

「任意代理の委任契約」とは、簡潔に言うと、判断能力は低下していないが、身体の自由が利かず財産管理が困難なので、親族や法律専門職等に代理権を与えて代わりに財産管理等をやってもらうことができるようにする契約のことです。判断能力が低下していないことが前提ですので、既に認知症になっている場合は、成年後見(法定後見)を利用することになります。

「任意後見契約」とは、簡潔に言うと、判断能力が低下する前に自分の財産を管理する後見人(又は身上監護をする後見人)をあらかじめ選んでおく契約のことです。契約締結後に自分の判断能力が低下した場合には、あらかじめ契約で選んでおいた人が後見人となり、以後、財産管理等を行います。

「法定後見の申立て」とは、簡潔に言うと、判断能力が低下した後に、親族等が家庭裁判所に対して判断能力が低下した人のために後見人を選んでくれとお願いする申立てのことです。

成年後見は、「被後見人の財産を維持する!」という精神のもとに行われる制度であるため、柔軟な資産運用ができません。また、専門職後見人への報酬の支払いがあるのがほとんどです。以下、成年後見制度等について概要を簡単にまとめました。

手法 内容・判断能力 メリット 問題点 備考
任意代理の
委任契約
任意後見契約

判断能力が低下する前契約を締結する必要あり。


契約により財産管理及び身上監護の代理権を与えることが可能。

財産管理受任者及び後見人を自分で選ぶことができる。


判断能力低下前から財産管理を任せることができる。

任意後見監督人が選任されることにより任意後見契約の効力が生じる(監督人報酬も発生)。以後、任意後見人はその者の監督に服する。 任意後見契約は必ず公正証書で締結する必要あり。
法定後見の申立て

判断能力低下後家庭裁判所に申立てをすることにより後見人を選任してもらう。


法律により財産管理及び身上監護の代理権等が与えられる。

後見人は被後見人が亡くなるまで(又は能力が回復するまで)財産管理及び身上監護を行うことができる。


後見人には、被後見人がした契約の取消権がある(一部例外あり)。

後見人は家庭裁判所の監督に服するため、柔軟な資産運用等ができない居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要


被後見人が亡くなるまで(又は能力が回復するまで)専門職後見人への報酬が発生する。

3.従来型の「資産承継」の手法

従来型の資産承継の手法と言えば生前贈与や遺言があります。

生前贈与は、贈与者(財産をあげる人)の財産(所有権)を生前のうちに完全に受贈者(財産をもらう人)へ移してしまう資産承継の手法です。

遺言は、遺言者(遺言書を作った人)が死亡した後に受遺者(財産をもらう人)への財産(所有権)移転の効果が生じる資産承継の手法です。

生前贈与は原則として高額な贈与税負担が生じてしまいますし、遺言は書換へのリスクや財産承継先を一代しか決められないなどの問題があります。以下、生前贈与及び遺言について概要を簡単にまとめました。

手法 内容・判断能力 メリット 問題点 備考
生前贈与

生前のうちに資産を承継する。もちろん、贈与は契約なので、判断能力の低下後は不可

生前のうちに財産を引き継ぐことができる。

原則として贈与税が高額。ただし、各種の特例を使うことにより贈与税を安く抑えられる場合もある。

遺留分との関係に注意。
遺言

遺言書は生前に作成するが、その効力(資産の承継)は遺言者の死後に発生する。


もちろん、判断能力の低下後は原則不可

遺言者の最終意思を反映した相続が実現される。


遺言書があることで相続手続が簡易になり、相続人の手間が省ける(遺産分割協議が不要)。

財産の承継先の指定は一代までしかできない。

・「父⇒子」までは指定可

・「父⇒子⇒孫」は指定不可

遺留分との関係に注意。

4.家族信託のススメ

これまでは、財産管理及び資産承継の全ての機能を網羅するには「任意代理の委任契約+成年後見+遺言+遺言執行」をセットで行う必要があり、これらの手続を個別に行うことは非常に煩雑でした。

家族信託は、財産管理から資産承継までを一貫して一つの信託契約で実現することが可能です。

なお、家族信託制度の説明はこちら⇒家族信託・民事信託

家族信託では、信託財産の管理は受託者が行い、信託契約の中で財産の承継先を指定(残余財産の帰属権利者を指定)することができるため、円滑な資産承継が可能です。

家族信託を利用することにより、従来型の財産管理や資産承継の手法の問題点をある程度解決することができます。

家族信託は柔軟な資産運用が可能です。

⇒家族信託では、家庭裁判所による監督が及ばないため、信託の目的の範囲で受託者が信託財産を自由に管理・処分することができます。

☑家族信託の受託者報酬を無報酬とすることもできます。

⇒信託契約により一定額の報酬を定めることも可能ですし、無報酬とすることも可能です。

☑家族信託では、原則として受益権(信託財産より利益を受ける権利)の移転先を何世代でも指定できます。

⇒ただし、信託設定時から30年という期間制限があります(30年ルール)。具体的には、信託設定時から30年経過した後の受益者の交代は1回だけという制限で、信託自体は30年経過後に新たに受益者となった人が死ぬまで存続することになります。

☑家族信託の契約変更は、原則として委託者、受託者及び受益者の合意が必要です。

⇒ただし、契約の変更について信託契約で別段の定めを設けることができます。なお、受益者代理人を定めておき、受託者と受益者代理人とで契約変更できるように設計しておくと、受益者の認知症のリスクに備えることができます。

☑家族信託では、委託者と受益者が同一人の場合は贈与税の問題が生じません

⇒税務上では受益者が信託財産を所有しているとみなされますので、委託者兼受益者の場合は実質的に財産の移動がないことになります。ただし、受益者と委託者が別人の場合は、贈与税の問題が生じますので注意を要します。

なお、注意を要するのは、家族信託は決して万能な対策ではないということです。受託者はあくまでも財産管理者であるため、受益者の身上監護権は認められていません。受益者の身上監護をカバーするためには、家族信託と任意後見を併用する必要があります。

また、信託契約の効力が及ぶのは、あくまでも信託財産(信託契約により受託者に託した財産)のみになりますので、信託財産以外の財産(委託者の手元に残っている財産)の遺産分割協議を回避するには、遺言書を作成して財産の帰属先を指定しておく、つまり、家族信託と遺言を併用する必要があります。

したがって、ご自身又はご両親の想いの実現のために一番ベストな手法を選択することが非常に重要であり、場合によっては、家族信託だけでは想いの実現ができない場合もあるでしょう。その際には任意後見や遺言等の他の手法との併用を検討することが必要になります。

5.最後に

家族信託は、資産家や経営者に限らず、誰でも気軽に利用できる仕組みです。成年後見のように家庭裁判所を介在させる必要がなく、家族間の自由な契約等で作れる自由な制度です。

なお、家族信託を使ったからと言って相続税が安くなるわけでもないですし、もめ事が解決できるわけでもありません。

家族信託は、信頼しあえる家族がいて初めて利用できる手法です。家族信託等の生前対策を検討される場合はぜひとも当事務所にご相談ください。